スモールプロスポーツクラブ経営シリーズ②:戦略的思考とその必要性~戦略的思考というのは必ず、「目的→戦略→戦術」と下方展開していく~

ここ数回にわたって、高知ユナイテッドSCのJリーグ昇格に向けての応援のような形で記事を書き続けていますが、地方をホームとするスモールプロスポーツクラブにとって、戦略を練りに練りまくることがどれだけ重要か?ということは、前回、前々回でお伝えしてきましたが、今日は、その戦略を考えていくために必要な「戦略的思考」についてお話していきたいと思います。

あなたがプロスポーツクラブにおける経営陣であったり、スポーツビジネスの経営者であれば、マーケティングを学び実践していくことは必須であると思います。そして、様々なマーケティング活動を行う上では、戦略的に頭を使っていくことに慣れていかなければなりません。
今回のお話で、是非、戦略的思考を理解してもらえればと思っています。

では、まず初めに戦略を考える際に出てくる、「目的」と「目標」の違いについて見ていきましょう。
日本語では、同じような意味合いで使われがちな言葉ですが、戦略用語としては全く違う意味なので、ここではっきり理解しておきましょう。

まず、「目的」とは、成し遂げるべき到達点、達成すべき使命であり、戦略的思考の中では最も上位に位置する概念です。
次に「目標」とは、その目的を達成するために経営資源を投入する具体的な的や指標のことです。

まだピンとこない方もいるかと思いますので、具体的に目的と目標を設定してみましょう。

「目的は過去最高の年間集客数を超えること!目標は小さな子供連れファミリー層!」

このプロジェクトの最上位概念である「目的」は過去最高の集客数を超えることであり、そのために自社の資源を集中的に注ぐべき「目標」が小さな子供連れファミリー層。つまり、小さな子供連れファミリー層という大きなグループの集客を伸ばすことができれば、過去最高の集客数を超えることができる、と言っているんですね。
つまり、目標というのは経営資源を集中投下していくターゲットのことを意味しているんですね。

目的と目標の違いは把握できたと思いますので、次はこの目的を実現するために必要とされる「戦略」「戦術」、この違いも見ていきましょう。

まず「戦略」とは、一言でいってしまえば、目的を達成するための「資源配分の選択」のことでしたよね。
これは、前回の記事で書いてます。ん?何のこと?となる人は、また読みのしておいて下さいね。

では、次に「戦術」について、戦術というのは戦略を実行するためのより具体的なプランのことです。
戦略を実行するために戦術があるということですから、戦術は常に戦略の下位に位置する概念となります。

戦略は目的を達成するためのものであり、戦術は戦略を実行するためのものだということです。
つまり、戦略的思考というのは必ず、「目的→戦略→戦術」と下方展開していくことになります。
また、目的に直結する上位概念である戦略というのは、消費者からは見えにくいものなんですね。
ビジネスでも実際の行動は、この「戦術」の段階なんですね。
ですから、消費者が目にするものは大半が戦術なんですね。マーケティングにおいては、消費の最前線で勝利することが「戦術」の使命といえます。
ですので、この戦術が弱ければ、どんなに優れた戦略があっても実現されず絵に描いた餅に終わってしまうんですね。
つまり目的が達成されることもないということです。
ですから、勝つためには戦術もめちゃくちゃ大事です。

戦略的に頭を使う、つまり、戦略的思考において重要なのは、「目的→目標→戦略→戦術」の順番で考えていくことなんですね。
その方が効率的に仕事ができるからです。


その中でも最初に目的を明確にするのが一番大事です。

なぜかというと、戦略は目的を達成するために設定されるので、目的が変わってしまえば全ての戦略はやり直しになりますし、当然戦略の下に位置する戦術も全てやり直しになります。だから、目的はまず最初に設定しましょう。

で、目的が明確になれば、次は、戦術よりも戦略を先に明確にします。戦略は資源配分の選択のことでしたよね。つまり、戦略というのは資源の集中先の方針を決定するんですね。そこが決まれば、戦略の範囲外に位置するような様々な戦術を全部考えなくてよくなりますよね。

戦略と戦術は明らかに違いますから、戦略レベルの話と戦術レベルの話は明確に区別しておきましょう。
あなたが採用する戦略によっては、その戦術は一切不要となる可能性もあるからです。
だからこそ、先に戦略を決める、戦術はその後に決めるものなんですね。

目的と目標、戦略と戦術の違いは理解できましたか?
戦略的に考えることができる、ということは「目的→目標→戦略→戦術」の順番で考えられるようになるということです。

具体的で発想しやすいからという安易な理由で、戦術から考えるようなことはやめましょう。
目的と戦略が定まらない限り、戦術に費やした時間は無駄になる可能性がありますからね。

では、ここまで説明してきた戦略と戦術ですが、あなたはどちらの方がより重要だと思いますか?
今までの話を聞いてきたあなたは、戦略も戦術も両方ともに重要だということは認識頂けていると思うんです。
戦略が弱ければ正しい方向へ資源を配分できなくなるし、いくら戦略が正しい方向性を打ち出してくれていても、それを実行する戦術が弱ければ目的は達成されませんよね。

では、どちらがより重要となるのか…
下図のような戦略と戦術の組み合わせて考えてみましょう。


まず横軸に戦略の良し悪しを取ります。縦軸に戦術の良し悪しを取ります。
そうすると4つのグループに分けることができますね。
右上のAは戦略も良くて戦術も良い、右下のBは戦略が良くて戦術は悪い、左下のCは戦略が悪くて戦術も悪い、左上のDは戦略は良くて戦術は悪いと定めます。
では一度、このA~Dについてビジネスでよい結果が出そうな順番を考えてみて下さい。

答えは「A→B→D→C」ではなくてですね、「A→D→B→C」でもなくてですね、
正解は「A→B→C→D」の順番なんですね。
Aが最善、Bは次善、Cはまだマシ、Dは最悪…です。

これ、どうしてか分かりますか?
こういったことを、その都度その都度深く考えずに感覚的に分かるようになっていきましょう。

もしかするとあなたは、なぜこの順番になるのか?と、今ひとつピンと来ていないかもしれませんが、これは具体的な目的を設定して、A~Dの戦略、戦術を当てはめていくとすぐ分かります。

例えば、「福岡から東京の国立競技場まで行く」、ということを目的にするとしましょう。

では、Aは戦略がGoodなので、福岡から国立まで正しい方向で進むという戦略にしましょう。で、戦術もGoodなので具体的な移動手段もOKということですね。飛行機で行く(早く着きます)、新幹線で行く(快適に楽に行けます)、バスで行く(安く行けます)などですね。
目的である、国立競技場に到着するということは十分達成されるはずなので、このAが最善であることは間違いないですね。

では次にBを見ましょう。
戦略がGoodなので国立迄正しい方向で進みますね。しかし、戦術がBadなので具体的手段がダメってことですね。
例えば、自転車で行く(めっちゃ時間かかる、しんどい)、徒歩(もはや着かないのでは…)を手段としてしまっているなどです。目的である国立競技場に近づきはしますが、到着・目的達成は限りなく難しい、できない可能性が高いです。ただ距離は確実に縮まるのでこれを次善策とします。

では、Cはどうでしょうか。
戦略がBadで戦術もBadということは、間違った方向に間違った手段で進んでしまうということですね。
戦略が間違えているということは、国立競技場ではなくて沖縄アリーナに向かってしまう、真逆の方向に進んでしまうということです。
それに加えて戦術も間違っていたということですから、沖縄アリーナへ自転車や徒歩で向かってしまったということですね。
そうなると、間違った方向へ少しだけ進んでしまったということになりますね。Cがまだマシな理由はここにあります。間違いに気づいたときに、まだ修正しやすいからです。

最後は、最も悪いとされたDです。
Dは間違った戦略で戦術が正しいという場合ですが、この時は、いったいどういうことが起こってしまうかと言うと…
それは、間違った方向に思いっきり進んでしまうことを意味しているんですね。沖縄アリーナに向かって、飛行機で一気に飛んで行ってしまうというイメージですね。気が付いたときには目的から大きく離れてしまい、取り返しのつかない状態になっています。
これが最悪のビジネス結果を生む可能性が一番高いんですね。

いかがでしたでしょうか?

このABCDについての説明で分かったと思うのですが、つまりですね、戦略の方が戦術よりも大事だということなんですね。
戦略の大きなミスというのは戦術ではどうしようもできない、リカバリーできないからなんです。
Dでも説明しましたが、特に間違った戦略で戦術的に優れてしまうと、よりダメージが大きくなったりします。

ですから、企業にとってどう戦うか(戦術)の前に、どこで戦うか(戦略)を正しく設定できるかが重要だ、とよく言われるのはこれが理由なんですね。

私が見てきた多くの方々は、より具体的で考えやすい戦術的な方法論や手段ばかりを考えていることが多いです。
どのように(いわゆるHow)から考えるのではなくて、まずは戦略をしっかりと考え抜いて経営資源を集中すべき大きな方向性を選ぶことが大事です。

私が、戦略を練りに練りまくることが重要だと言ってきた意味が分かってもらえたでしょうか。

今までの、あなたはどうでしたでしょうか?戦術ばかり考えていませんか?

これを機に、目的→戦略→戦術という順番で、戦略的に考えることができるようになってくださいね。
そうすればきっと、勝てる場所が見つかり、そこに経営資源を集中させることができれば、必然的に勝つ確率を上げることができます。

是非、あなたの戦略的思考でクラブを経営面でも勝利に導いて下さい!